フリーター・テンプレート
毎日寝ぐせも梳かさず、汚れたコンバースのスニーカーにしわしわのシャツ、グレーのパーカーを纏い、休憩室にヌルっと入ってくる。店長と砕けた言葉を交わし、時間帯に応じた客層の変化に目ざとい。新たな常連の出現にいち早く気が付き、センスある風のあだ名をつけて吹聴し定着を図る。仕事は気怠そうにこなし、最低限の動きしかしない。新人のバイトの子(女子大生)に爽やかに話しかけ、嫌みなく連絡先を聞き出す。休憩時間はパイプ椅子に深く座り(背中の高い位置と尾てい骨の辺りしか椅子と接していないあの座り方)スマホゲームに興じる。バイトが終わっても長々と休憩室に居続け、しきりに舎弟のような年下のフリーターを飲みに誘う。
これが僕のフリーターのイメージだ。
マイナスイメージの言葉を多く使ったが、
結構僕はこのフリーター像に羨望を抱いている。
僕は今ハンバーガーチェーンでアルバイトをしている。
勤めている人の多くは大学生で、少なくとも男の店員では僕が最年長だ。
大学生の子の目に僕はどう映っているのだろうか。
毎日つまらなそうに仕事をこなす(それも全く仕事が出来ない)僕。
いつも夜勤終わりに来てることを言い訳に疲弊を剥き出しにし、目をこすりながら出勤する僕。
芸人だと人づてに聞いた(僕は吹聴してないのだが恐らく全員が知っている…)が、その片鱗はなく、常に陰気で返事も最低限(たまに返事すらしない(グレてるわけじゃなく、重度の人見知り))な僕。
僕は所謂フリーターになれているだろうか…
凄く心配になる。
「君の鳥はうたえる」という映画を1ヶ月ほど前(テアトル新宿の邦画大忘年会!)に観なおした。柄本佑さん演じる図書店員は理想のフリーター像の一つだった。毎日適当に仕事をこなし、酒気を帯びたまま仕事場に来るし、平気で遅刻欠勤してスマホばっかり弄っている。仕事終わりに飲みに行き、友達とルームシェアをして恋をする。最高。
ただ「君の鳥はうたえる」は舞台が函館だからできる生活。都内でフリーターをすると、ちとお金が要り様になるから生活も切迫する。数年前(?)話題になった、成田凌さんと杉咲花さんのティファニーのCM(6分もあるwebCMだ)は都会の若者の恋愛を描いたものだが、あの生活も理想と言えばそうで、毎日仕事場と家の往復で、生活を維持するのに精一杯で、起きて着の身着のままで仕事場に向かい、着替え中にラインの返信とTwitterのTLを追う。仕事が終わるときには全気力を奪われており、ベッドに死にゆくように落ちていく。この毎日が無限に繰り返されていく。
当人は苦しいだろうが、意外と傍から見ると、今までどこかで見聞きしたような『記号化できる生活』の一つであり、「まぁ、大変なんだろうね」くらいで済ませられそうである。
大丈夫だろうか。
傍から見ている人は、僕の生活を記号化出来てるのだろうか。東京で夢を追いアルバイトで生計を立てる23歳としてテンプレに当てはめてくれてるだろうか。
自覚無く奇人になっていたらあまりに怖い。
ここまで書いて気が付いた。
このフリーター・テンプレート最大の魅力は、恋をして楽しく生きている部分だ。
なんだよ。
結局それか。
お前には失望したよ…
先日スケッチブックを買って、筆記体で"Life"と表紙に書いた。
無造作に書いたように、
決して気負いが見えぬように、
何度も何度も練習してから書いた。
1ページ目にこのノートを書く理由を言い訳のようにダラダラ書き、
2ページ目に『楽しく生きる』と書いた。
憧れてる。
楽しく生きてる人に。
なれるだろうか、僕は。
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